お正月と言えば…の風物詩。日本のそれはといや、正装しての初詣でにお年始回り。お屠蘇で祝って、お雑煮食べて。凧揚げに独楽回し、追い羽根つきにカルタとり。すごろくや福笑いなどなどは、まま、家の中でやる遊びだとしても。広場や町角では、お年始のご挨拶に忙しい大人たちの傍ら、凧や独楽、羽子板持った和子たちが、ワッとお元気に駆け抜けるのが、どこでだって見受けられた風景だったのだけれども。これも少子化の影響か、いやいや環境も大きに関係してのこと。そんな遊びにというお出掛けの適うような、公園や広場もなけりゃあ、車優先の危ない町ばかりが増えており。都心のお子様は、便利は便利なんだろけれど、何かを感じる力は随分と早くから削がれてしまうばかりで、そういう点だけ見るならば、何とも気の毒な環境にあるのかも。片田舎の和子たちにしたところで、同じコト。フィールドとなるご近所の遊び場には、申し分のない環境が整っているのだが、いかんせん、同い年の子供らが激減しているものだから。やはりやはり、懐かしい遊びはどんどんと廃れていってもいるそうで。
『まま、この辺りじゃあ まだまだそんなこともないようだが。』
川風に煽られてどこまでも、高々と青空を駆け上がる凧には相変わらずに人気があるし、追い羽根突きは、バドミントンなみの速さでの応酬がスリリングでと、お元気なお嬢さんたちの間でいまだに楽しまれているようだし、
「くいな姉とナミとが、
いっつもワンツーチャンプなんだよな。」
「そうそう。
男子がとうとう挑戦しなくなったもんね。
あんなの女の遊びとか言って。」
独楽回しにしてみても、ベイ何とかなんてなハイカラな名前に変わりつつ、やっぱり人気は絶えない模様。しかもしかも、意外なお人が仲間うちでは名人と呼ばれており、
「だーっ、やっぱ勝てね。」
「何でだろな、そんな変わったパーツつけてねぇのによ。」
円盤の中や芯棒に当たる部位やら、何十ほどもの様々なパーツがあって。それを組み替えて回転や重さを変えてゆく“改造”もまた、今時の独楽、ベイ何とかの醍醐味なのだが。特に高価なものや特別なものを、取り寄せてもらってる訳でもないというのに、
「へっへー、こゆのは勘だ勘♪」
絶妙な繰り出しようが功を奏すのか、ルフィ坊やの独楽に勝てるお友達は一人もいない。時々、年上のお兄さんなども相手をしてくれるのだが、やっぱり負けることはなく、
「今度 川向こうの大町で、ゲーム番組の大会があるんだってよ。」
「ルフィも出なよ、それ。」
「う〜、でもなぁ。」
宝物入れの小箱へと、愛機とパーツを片付けながら、まんざらでもないというお返事をしつつも、お顔は何だか渋りがち。
「ししょーが許可出してくれねぇし。」
「ししょー?」
あ、師匠か。誰だ、それ。初耳な存在に、お友達が小首を傾げるものの。それだけは内緒だということか、ややわざとらしくも強引に、上下の唇、気張って合わせ閉じてしまう坊やには、それ以上は訊いても無駄だとは、皆も承知。
「まあ、いいけどよ。」
「でもな、もしそゆのへ出るんなら、教えてくれな。」
みんなで応援に行くからさ。おお、そんときは よろしくなっ。気安く応じて冷たくなった風の中、自宅へ向けて駆け戻る子供らで。多少は長くなった夕方ではあるが、それでもこの寒さの中への長居はきつい。ゆるやかな坂を駆け上がりつつ、どこからか届いた揚げ物の匂いへ、小さな坊やはわくわくと口許をほころばす。
今日のご飯は何だろう。
コロッケとかグラタンだと良いな。でもでも、まだお正月のご飯かもしんないな。マキノの作るご飯はどれも美味しいけれど、シャンクスが我儘言って、大人のご飯にされちゃうのが詰まんねぇ。そんなこんなをごしゃごしゃと考えてたおチビさんが、あとちょっとで自分チの門柱が見える寸前にて、
パタリと足を止め、立ち止まる。
一応は綿の入ったスカジャンっていうのを羽織ってるけれど、マフラーもなけりゃあ、手套も…さっき遊んでた広場に忘れた。そんな微妙ないで立ちの坊や、ぴゅうっと吹きつけた北風へも、瞬きしないで見やったものへ、
「……vv」
ついのこととて にんまり笑った。さてそれから…………どのくらい経ったやら。
◇◇
「ルフィがいない?」
中州の里の人気者、小さくて腕白で、お元気な坊やが、陽が暮れても戻って来ない。今はまだ冬休みなので、それでなくとも艀(はしけ)には乗れない幼子だから、この里の中には居るはずで。しようがないなぁと、父上の切り盛りしている回船会社の従業員の皆さんで、捜し回ったがどこにもいない。ちょっと待てよ、おいおい、どんどんと暗くなるのに、風も冷たくなってくるのに、こうなってはもはや、隠れんぼなんかじゃああるはずがねぇ。本気で探せやとありったけの明かりを灯して見回ったけれど、やっぱり何処にも見当たらぬ。隠れんぼじゃあないんなら、こっちの呼びかけに応じるはずだのに、うんともすんとも言わぬとは、こりゃあどうしたことだろかと、
「親父はパニック起こしてるから使いもんにならなくてさ。」
それでと、ルフィとはそこだけがよく似た、まとまりの悪い黒髪を夜風にかき回されながら、兄上のエースが訪のうたのが、粉屋で道場主でもあるロロノアさんチで。ルフィ坊やが一番大好きなお友達、年上のゾロ兄ちゃんのところに行ってはないかと訊きに来たのへ、
「いや。俺、今日は大町に出てたし。」
向こうの知人の道場へも出稽古にと教えに行ってる父上に伴われ、姉上の監視の下、寒稽古の手伝いをさせられていたもんだから、戻って来たのもついさっき。彼に至っては戸前で呼び止められたようなものであり、だがだが、
「それでも、心当たりとかないかなぁ?」
何しろ、今や家族以上に“大好き好き好き”と言ってはばからないお気に入り。子煩悩なシャンクスがこそり口許ひん曲げるほどの贔屓っぷりだからして、彼の側からもそんなルフィをよくよく把握してんじゃないかと尋ねれば、
「………、あ。」
あんまり表情豊かとは言えぬ、将来は随分と頑固な男になりそな気配のする、頑なそうな眉を寄せていたものが。あっと弾けての顔を上げ、こっちと短く言い置き、そのまま駆け出しており。何だなんだと追うエースを引き連れ、彼が向かったのは、母屋の傍らにうずくまる、古風な作りの道場……の横手。しっくい塗りの壁の下側、板張りを巡らせた外回りの様子が宵闇に浮かぶ中、何処からともなく、小さな気配が立っており。
「…ルフィ?」
今は使ってはない、風呂焚き用の薪小屋へ。迷う事なく歩みを運んだゾロだったのへ、な〜ると内心で手を打ったエースだったのは、コトの運びの先を読んだから。動機は判らぬままながら、自宅へは帰らずにこちらのお宅へ向かった坊や。助けを求めてだったろに、肝心のゾロは不在とあって、隠れんぼに使っておいでの小屋へと隠れた?
“…けど、この寒さなのにか?”
いくら一途な弟だとて、こうまで寒いのには敵うまい。何でまた、火の気のないところへ もぐり込んだままなのか。父上が甘やかしている反動か、意地っ張りでも心細さにはまだまだ打たれ弱いから、え〜んえ〜んと泣いていたって おかしかなかろに、何のお声もしないは不審。どこかでソロバンが合わぬのへ、怪訝そうになったまま、さっさか歩む年下の剣豪殿の背中を追えば、
「…、あーっ。ゾロだぁっ!」
どこ行ってたんだよ、このやろと。やはりやはりお元気なまんまの、愛らしくも こまっしゃくれたお声が立って。それと、
「あうっ、はうあうっ!」
………………はい?
どうやら坊やだけじゃあなかったらしいこと示す、寒さよけの相棒さんのお声も入り混じる。
「ルフィ?」
明かりのない手狭な小屋の中、持って来ていた懐中電灯で照らして見やれば。見慣れた坊やの、くるくるとしたお眸々も愛らしいお顔のそのすぐ下の胸元へ、ぎゅむと抱きしめられているのは……、
「コリーか?」
「ぶぶーっ。こりはな、セルティってんだ。」
ふさふさの毛並みを胸に抱っこしたまんま、こないだ、ぽちたまに出てたもんと、えっへんと胸張る坊やだが、
「それも言うなら“シェルティ”じゃあないのか?」
「うや? あり?」
小首をかしげたその隙ついて、そちらもお顔を上げて見せ、坊やのお顔をぺろぺろ舐める可愛い子。どうでも良いからとっとっと出て来なと、お兄さん二人に引っ張り出されるまで、自分が迷子扱いされてたなんて、露ほども知らなんだ腕白さんでありました。
◇◇◇
そちらは正真正銘の迷子だった子犬くん。川向こうの大町へ、親戚の家へと遊びに来ていたご家族が連れて来たのが、鎖をぶっ千切って逃げ出した結果の遠出だったようで。
『係員さんの隙をみて、艀にも乗っちゃったんだろな。』
猫は多いがそういえば、犬はあんまり見かけぬ中州。ふっさふさの毛並みも愛くるしい、そんなわんこを帰り道にて見かけたルフィが、はうぅうvvと目許を潤ませたのは言うまでもなかったが、
「だって、家へは連れてけないじゃん。」
俺、知ってんだからな、シャンクスは昔に犬に咬まれたことあって、それでどんな小さいのでも嫌いだって。なのに連れて帰るなんて出来ねぇじゃんかと。坊やなりの葛藤の末の行動だったのだと、温かいお雑煮食べつつ、大威張りにて胸を張ったりするもんだから。
「〜〜〜〜〜。」
思わぬ奇襲には、さしもの親父殿も太刀打ち敵わなかったのか、ぐぐうと二の句も告げずの黙りこくる他はなく。わんこの飼い主さんが連絡を受けて引き取りに来るまでの一晩を、どういう付き合いだか、ゾロまで一緒になって遊んで過ごした、何だかややこしい新年の晩であり。
かーいかったよなvv
ウチでもあんなわんこ、ホントは飼いてぇんだけどもよ、
シャンクスがヤダってんじゃあ無理な話だしよ。
そん代わりってことで、今度川向こうで べいぶれーどの大会あんの、
一緒に連れてってくれるんだってvv
ししょーが良いって言うんなら、出てもいいってこったろからさ。
俺、絶対ゆーしょーすっから、ゾロも見てろよな!
かわいらしい話しっぷりから、いろんなことがボロボロと暴露されちゃうのもいつものことな、愛らしい坊やは今年もお元気に稼働なさったようであり。川の中州の小さな里は、今年も春からにぎやかに、新しい年 迎えたそうな。
皆様も、どうかよい一年をお過ごし下さいますように。
〜Fine〜 10.01.06.
*大みそかからこっち、いきなりの極寒ですよね。
それでもお元気に外遊びしていた子供らの声がしていたので、
あれって親御さんが大変だよねぇと、
すっかりとおばさん思考で物を考えるようになってた
そんな自分へも気がついた冬休みでございます。
何はともあれ、今年もよろしくお願い致します。
*拍手お礼に掲げた大元のお話はこっち。→ ■


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